ベストセラーとなった『嫌われる勇気』。
主人公の青年と哲人の対話が織りなすアドラー心理学の教え。「世界はシンプルであり、人生もまたシンプルである。そして、いますぐ幸せになれる。」
本を読んだときは、視界が開ける感覚があり、寝ることも忘れ一気に読んだ記憶があります。哲人がひとつずつ丁寧に教えてくれるので、とてもわかりやすいんですね。
その『嫌われる勇気』を本で読むこともおすすめですが、オーディオブックで聴けばさらに理解が進みますし、オーディオブックならではの聞き応えがあります。
劣等感の塊であるひねくれた青年がよく伝わる
主人公の青年は、自分に自信を持てておらず、学歴や職業、見た目などにひどい劣等感を抱えています。
そのため幸せを感じることができず、哲人の元を訪ねたわけですが、その青年のひねくれ具合がハンパない。
本だけでも十分感じたのですが、オーディオブックだとなおさらです。
青年のセリフは、本だとそこまで荒々しく感じませんが、オーディオブックだと青年の怒りに満ちあふれた感情がよく伝わってきます。
「ええい、このサディストめ!! あなたは悪魔のような御方だ! そうです、たしかにそうですよ! わたしは怖い。対人関係のなかで傷つきたくない。自分という存在を拒絶されるのが、怖ろしくてならないんです! 認めようじゃありませんか、まったくそのとおりですよ!」
「先生、それでもあなたは哲学者ですか! 人間には、対人関係なんかよりもっと高尚で、もっと大きな悩みが存在します! 幸福とはなにか、自由とはなにか、そして人生の意味とはなにか。これらはまさに古代ギリシア以来、哲学者たちが問い続けてきたテーマではありませんか! それがなんですって? 対人関係がすべてだと? なんと俗っぽい答えでしょう、哲学者が聞いて呆れますよ!」
「わたしを糾弾されるおつもりなのですね! 人を嘘つき呼ばわりして、卑怯者呼ばわりして! みんなわたしの責任だと!
「先生、あなたの議論は人間を孤立へと追いやり、対立へと導く、唾棄すべき危険思想だ! 不信感と猜疑心をいたずらに掻き立てるだけの、悪魔的教唆だ!」
この字面を読んだだけで、あの青年の声が甦ってきます。もし青年と同じように感じていれば、青年に感情移入しやすいでしょうし、物語に引き込んでくれます。
青年に対して淡々と説く哲人
最初から失礼なことを言ってくる青年に対して、哲人は友人として丁寧に応えます。
年下からあんな風に言われたら腹が立つものですが、青年の言葉に対して一つずつ丁寧に説いていきます。
この二人の対照的な声色は文字を読むだけではわかりませんが、耳で聞けば物語として味わえます。
「シンプルな課題—やるべきこと—を前にしながら「やれない理由」をあれこれとひねり出し続けるのは、苦しい生き方だと思いませんか? 小説家を夢見る彼の場合、まさしく「わたし」が人生を複雑にし、幸福に生きることを困難にしているわけです。」
「苦しい生き方だと思いませんか」という言葉がいかにも苦しいではないかと語りかけてきます。
「むしろ、アドラーの目的論は「これまでの人生になにがあったとしても、今後の人生をどう生きるかについてなんの影響もない」といっているのです。」
力強い哲人の言葉です。ここは哲人か喋る部分でも、強めに言っているので本当に重要だと感じます。
物語が進んでいくと徐々に青年がアドラー心理学を理解し、幸せになる方法を知ります。
するとその声色がだんだんと変化していきます。最後のシーンでは、青年は別人のようになっています。心が開けたかのように。
笑えたところ
本を読むだけだったら、流してしまいがちなシーンもオーディオブックで聴いたから、意外と笑えるところもあるんです。
哲人 「問題はそこです。」
青年 「どこです?」
この「どこです?」か間髪入れずに言ってくるのがおもしろい。青年の必死さが伝わってくると同時に、真剣さゆえにコントっぽく聞こえるんです。
哲人「アドラーは自らの述べる共同体について、家庭や学校、職場、地域社会だけでなく、たとえば国家や人類などを包括したすべてであり、時間軸においては過去から未来までも含まれるし、さらには動植物や無生物までも含まれる、としています。」
青年「はっ?」
哲人が詳しく説明したと思ったら,青年のこのとぼけ具合。「何言ってるんだこいつは」と言わんばかりの「はっ?」です。
おわりに
こういった物語形式の本をオーディオブックで聴くと、より一層楽しむことができます。
普通のビジネス書であれば、声優さんが1人で朗読しますが、この『嫌われる勇気』は2人の声優さんが朗読しますので、物語に入っていけます。
オーディオブックで聴くと、哲人が語るアドラー心理学の講義を受けているように感じます。青年と同じ椅子に座って諭すように語りかけてくる哲人に耳を傾ける。
耳でもアドラー心理学を学べますね。