オーディオブックの『幸せになる勇気』を聴き終えました。
日本中にアドラーブームを巻き起こしたベストセラー『嫌われる勇気』の続編です。
参考:なぜ愛する勇気を持てないのか『幸せになる勇気』岸見一郎/古賀史健著
前作『嫌われる勇気』もオーディオブックで聴きました。まるで哲人の講義を聴いているような感覚でアドラー心理学の理解が進みました。
参考:【オーディオブック】『嫌われる勇気』で哲人が語るアドラー心理学の講義を聞こう
今作もオーディオブック化されていたので、青年と哲人のより深く踏み込んだ一夜限りの対話を興味深く聴くことができました。
今作はアドラー心理学の実践をテーマにしたものになっています。
アドラー心理学を深く学ぶ!オーディオブック『幸せになる勇気』の聴きどころ
前作と声優陣が同じなので対話にすぐ入り込める
一番嬉しかったのが、声優陣が前作『嫌われる勇気』と同じだったということです。
もし同じ役の声優さんが異なっていると、続編といえどもすんなり物語に入り込むことができません。
しかし、『幸せになる勇気』の声優陣が同じですので、声の違和感に慣れる必要がなく冒頭から物語に入り込めます。『嫌われる勇気』の話が思い起こされるんですね。
前作から3年が経過しているにもかかわらず、まるで青年と哲人が次の日に再会したように感じられます。
特にアドラー心理学の内容は理解することが難しいですから、前作の延長線として、すぐに内容に入り込むことができるのは、聴く側からしたらありがたいものです。
青年の暴言がパワーアップしている
前作でも青年の荒々しい言葉遣いは不快なものでしたが、今回においてもさらにパワーアップしています。
青年は教師になっているにもかかわらず、哲人に対する無礼が行き過ぎていますね。オーディオブックではそれを一層感じることができます。
軽々しく同意するんじゃない、この時代遅れのソクラテスめ! いいですか、先生。あなたの語る人間は、しょせんすべてがダビデ像なんだ!
そう、ミケランジェロのダビデ像はご存じでしょう? 筋骨隆々として均整の取れた、ひとつまみの贅肉も見当たらない、まさに理想としての造形ですよ。しかし、それは血の通わぬ究極の理想像であって、現実に存在する人間ではない。生きた人間は胃も痛めるし、血も流す! あなたはいつも理想のダビデ像を見ながら人間を語っている!
軽口を叩くな、このサディストめ! 「お前はどこにでもいる平凡な人間だ」などと言われて、侮辱を覚えない現代人がどこにいる!! 「それも個性だ」などと慰めを受けて、真に受ける人間がどこにいる!!
……人間とはわからないものですね! まさか隣人愛を説くあなたから、こんな愚かしいニヒリズムの煮汁が染み出てくるとは!! なにが「人間の愛」だ! なにが常識へのアンチテーゼだ! そんな思想など、汚水をすするドブネズミにでも食わせておくがいい!!
青年のボキャブラリーが豊富で、セリフには鬼気迫るものがあります。書籍で読むのとは全然違って、想像していた以上に迫力がありますね。
オーディオブックならではの気づきがある
書籍では軽く読み流してしまった箇所を音声で聴くと耳に残ることがあります。オーディオブックならではの気づきがあるのがオーディオブックのいいところでもあります。
『幸せになる勇気』で特に印象に残ったのが次の箇所。
これは「変化とはなにか?」という問いにもつながっています。あえて過激な表現を用いるなら、変化することとは、「死そのもの」なのです。
たとえばいま、あなたが人生に思い悩んでいるとしましょう。自分を変えたがっているとしましょう。しかし、自分を変えるとは、「それまでの自分」に見切りをつけ、「それまでの自分」を否定し、「それまでの自分」が二度と顔を出さないよう、いわば墓石の下に葬り去ることを意味します。そこまでやってようやく、「あたらしい自分」として生まれ変わるのですから。
では、いくら現状に不満があるとはいえ、「死」を選ぶことができるのか。底の見えない闇に身を投げることができるのか。……これは、そう簡単な話ではありません。
だから人は変わろうとしないし、どんなに苦しくとも「このままでいいんだ」と思いたい。そして現状を肯定するための、「このままでいい」材料を探しながら生きることになるのです。
この哲人のセリフは、アドラー心理学の本筋ではないので書籍では軽く読み流していたのですが、「変化=死」という考え方は非常に興味深いものがあります。
人はなぜ変われないかというと、変わるということは、いままでの自分を全否定することになるからです。
それはつまり「死」を意味している。そんなことはできない、だからこそ現状維持を選んでしまう。
変化するためには、あたらしい自分に生まれ変わるためには、いままでの自分を殺して墓に埋めてしまう必要がある。
これはアドラー心理学のみにかかわらず、自分自身の行動を変えていくためには重要な考え方です。
臨場感のある対話でアドラー心理学の理解が進む
前作『嫌われる勇気』がアドラー心理学を理解するための地図であり、『幸せになる勇気』はその上を歩むためのコンパスとなる1冊です。
コンパスというのは結局のところ、三角柱のくだりにもあった「これからどうするか」ということ。「自分の人生をどう歩むのか」といってもいいでしょう。
勇気を持って一歩を踏み出す。これが自立であり、わたしからの脱却であると。あくまで「いまを生きる」ことの大切さを哲人は説いています。
哲人は青年に対して「尊敬している友人」だと述べ、手加減なしの本気の対話をしていきます。対する青年も違う意味で手加減なしの反駁を繰り返していきます。
この議論は聴いていて気持ちがいいものです。青年の暴言は行き過ぎですが、いまの若者なら絶対に言わない表現が面白いところでもあります。
ふたりの一夜限りの対話に切迫感がありますし、前作よりも議論の内容が深く、迫力が増しています。特に青年がパワーアップしていることに感動をすら覚えるでしょう。
前作をオーディオブックで聴いているなら、迷わず聴いてほしい1冊ですね。