最近ハマっている本が『なれる!SE』です。
いまはブラック企業がもてはやされていますが、特にシステムエンジニアの世界は激務だといいます。
急な飛び込み案件やシステムの不具合、顧客のクレームに対応しなければならず、会社に泊まることも日常茶飯事。かといって残業代は出ない。
業界のすべてがそうではないでしょうが、この『なれる!SE』で描かれる世界はハンパない。劣悪のひとこと。
でもそんなブラックな会社に就職した主人公の桜坂工兵くんが、周りの人とともに奮闘する姿を描いたストーリーは心躍るものがあります。
どんな困難が襲ってきても何とか解決しようとする工兵くんの姿に刺激をもらえます。
ブラックなシステム開発会社に就職してしまった主人公
大学4年生の桜坂工兵くんが就職活動をしますが見事に採用されません。あらゆる企業から蹴られ続けます。
そして藁にもすがる思いで見つけた会社が「スルガシステム」というシステム開発会社。面接を受けると、とんとん拍子で事が進み、その場で採用されています。
なんと地獄のような就職活動があっけなく終わってしまいます。
そして迎えた初出勤の日。なんと同期はおらず、職場に入ってみると徹夜明けの人が倒れていて、本当に大丈夫なのか、と不安になります。
さらに直属の上司はどうみても中学生にしかみえない室見立華さん。その上司の下で知識や技術もないまま、いきなり「コンフィグを作れ」とムチャぶりされます。
初日から残業が続いたり、社長が取ってきた案件を担当させられたり、スルガシステムは完全なブラック企業だったわけです。
でも、工兵くんは辞めることなく奮闘することになります。
入社初日から上司のムチャぶりが襲う
どうみても中学生にしか見えない上司、室見さん。完全なワーカーホリックです。
常に職場にいて、徹夜も辞さない働きぶり。ですがその技術はまさに一流。スルガシステムの屋台骨を支えています。
そんな仕事中毒の上司からムチャぶりされるわけです。コンピューターの設定となる「コンフィグ」を作れと。
「最初から全部分かったら勉強の意味ないでしょ。分からないところは調べながらやる。エンジニアの基本よ。あと何やったらいいかって、……私言ったでしょ? コンフィグを作れって」(P.121)
「とにかく、四の五の言う前にまずは資料を読んで。話はそれから。ちなみに締切は今日中だから。できあがったら持ってきて」(P.121)
工兵くんは、まったく何も分からない状態からスタートすることになります。
何もわからないので、とりあえずネットからサンプルをコピペして、それらしいものを完成させて室見さんに持っていくと……。
「私言ったわよね、一からコンフィグを作れって。誰がサンプルを持ってきてそれを編集しろなんて言ったの?」(P.136)
ネットから持ってきたものは余計な設定がされていたので、ひと目で見抜かれてしまいました。
「確かにそれでも納品用の設定はできあがるわよ。でもね、そうやって作ったコンフィグがもし現場で動かなかったらどうするの?」(P.138)
「仕様の伝達ミス、接続機器との相性、急な要件変更。想定外のトラブルなんていくらでも起きるわ。その時、現場で急遽コンフィグを変更しなきゃいけなくなったとして、あんたはどうするの? どこを変更したらいいか分かるの?」(P.138)
「サンプルをコピーしただけだから分かりません、とでもお客に言うつもり?」(P.138)
ぐうの音も出ません。
結局コンフィグは完成できず、夜中の23時を過ぎようしたころに「終電がある」と室見さんに話かけてみると。
「仕事の締切は今日中って言ったでしょ? あんたの終電なんてお客さんには関係ない。スキル不足で仕事ができ上がらないなら、その分、かける時間でカバーするだけよ」(P.143)
「無茶な納期も経験のない業務を振られるのも、この業界じゃ日常茶飯事。そういうものが出た時に、やれ終電だ、やれ教育を受けてないって言い訳する人間を、仕事仲間と認められないって言ってるのよ。一事が万事。今日逃げた人間は明日も逃げると思われる。そんなことも分からないの?」(P.147)」
これが入社初日のやり取りです。
普通の人なら、この瞬間につぶれてしまうのではないでしょう。
何も知らないのにいきなり「やれ」と言われて投げっぱなしにされる。これは正直キツいです。
新人とは思えない粘り強さ
でも工兵くんはこのまま引き下がるわけにはいかない、室見さんを見返してやろうと決意します。
自宅に帰ったのが深夜0時近く。コンフィグの作り方は結局わかりません。
どうするかというと……。
今から基礎を身につける。
明日の始業まで九時間、普通の勤務時間分くらいはある。ネットワーク技術全体を覚えることは無理でも今回の仕事──インターネットゲートウェイに関わるところだけならなんとかなるかもしれない。どうせコンフィグは数十行しかないのだ。その範囲を網羅することに集中すれば。──よし。
クォーターパウンダーにかぶりつき工兵はノートと鉛筆を取り出した。何かを理解しようとする時はとにかく実際に書いてみる。書いて頭の中身を整理する。ただ漫然と読んでいても絶対に理解できない。受験勉強の鉄則だ。
クリックを繰り返し解説サイトを読み進めていく。要点をノートに書きつけ、また別のサイトにアクセス。──一時間を過ぎる頃には朧気ながら勘所が分かってきた。(P.154-155)
こうやってサンプルのコピペじゃないコンフィグを何とか完成させ、室見さんから及第点をもらうことになります。
この姿がすごいなと感心しました。普通なら教えてもらうようなことをイチから自分で調べ、わからないながらも何とか完成させる。
これがエンジニアの基本であると同時に仕事のやり方なんだと思いました。
自分自身で試行錯誤しながら進めていく。そうしないと自分の仕事なのに自分で説明ができないことになります。
「過去の使い回しです」「ネットからコピペしてきました」では話にならないわけです。
基本といえば基本なのですが、ともすれば忘れてしまいがちな大切なことです。
1文字1文字に意味を込められるか。
『なれる!SE』は主人公の成長ぶりも見どころ
主人公の桜坂工兵くんが、さまざまな案件でトラブルに巻き込まれることになるのですが、それを見事に解決していくストーリーが痛快です。
毎巻、気持ちよく読み進められるのですが、その見どころのひとつに工兵くんの成長ぶりがあります。
新卒なのにここまで奮闘するのか、という姿が描かれています。
ただのシステムエンジニアのはずなのに、提案をしたり、プロジェクトマネジメントをしたり、新人を育成したり、いろいろやらされることになります。
ただでさえSEは激務なのにもかかわらず、頭の痛む思いをしながらも何とか解決しようとする工兵くんの姿はすごいですね。
働くうえで刺激をもらえる1冊ですよ。
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